ギューッと詰まった「気持ち」こそが
お客様に最高の幸福感をもたらす
「パリのレストランで修業を積んだ、有名シェフによる話題のフレンチ」
「ご夫婦でこぢんまりと営む、地方にある中華料理店」


 皆さんは、この文章を読んで、どちらに「行ってみたい」と思いましたか?今回は、私が訪れたふたつのお店を例に、本当に価値のあるレストランとはどういう場所のことを言うのか、考えてみようと思います。
 先日、静岡にいらっしゃるSalon de Kyoukaの会員さんが、私のお誕生会を催して下さいました。伺った場所は、静岡でとても美味しいと評判の、清水区にある中華料理店『盛旺』さん。今年の初め、会員さんと一緒に東京赤坂の中華料理店で薬膳料理を食べる機会があって、その席で、ひとりのかたが「静岡にも素敵なお店があるから、そこのシェフに薬膳料理を作ってもらいたい。それをぜひ叶佳先生に食べてほしい」と提案してくれた話が、実現したのです。
(写真:『盛旺』さんにて)
 清潔な一軒家で、シェフの望月一(もちづきひとし)さんが奥様とふたりで切り盛りしていらっしゃるこのお店は、ホールにアルバイトの男の子がひとりという、こぢんまりとした家庭的なレストラン。望月さんは、有名店で修業をしたなどの「いかにも食通が好みそうな」経歴はおもちではないけれど、本当に一所懸命に、真心を込めて料理を作っているかたです。
 いい食材を仕入れるために年に何度も香港を訪れて、そのたびに食材を自分で持ち帰っているとか。そんなこだわりの強いシェフが、私のためにメニューを考えてくれて、8名分のコース料理を作って下さいました。並ではない手間暇と、洗練されたセンスで考案して下さったコースの内容は、次の通り。

前菜の6点盛り、干し貝柱とフカヒレ入り地鶏の漢方スープ、活き車えびの緑茶蒸し、和牛ヒレと夏野菜の豆鼓炒め ラッキョウとともに、スペアリブの中国黒酢あんかけ、金針菜キニラ入り山イモの炒め、ハタの四川省産唐辛子漬け蒸し、五穀米の生姜風味チャーハン、できたて豆腐の緑豆汁粉掛け。

 ここで使用された素材は、主なものを数えるだけでも40種類以上。望月シェフは、このコースのメニュー名とともに、素材ひとつひとつの薬効も丁寧に手書きで書き出して、その紙を私たちに特別に配って下さいました(メニュー名と素材の内容はコチラ)。このきめ細かいサービスには、胸を打たれずにいられません。
 そして、いよいよ食事がスタート。ボリュームたっぷりのはずなのに、不思議とするするっといただけてしまう味のオンパレードに、とにかく脱帽。なかでも、私の大好物のフカヒレ入り漢方スープは絶品で、今までいろいろなところでいただいてきたなかでも、3本の指に入るほどの極上の味です。皆さんも、声を揃えて「こんなに美味しいスープは食べたことがない!」と、大興奮。体にすーっと染み入って心がほぐれていく、最高に上品なスープでした。漢方の素材を使っているから漢方薬を飲んでいるような感じなのだけれど、そんな簡単な一言では片付けられない。軽いショックを受けたほどの、筆舌に尽くしがたい味だったのです。
(写真上:フカヒレ入り漢方スープ)
(写真下:スープに使われている漢方)
 料理はすべて、さらっとしたピーナッツオイルをベースに使っていて、だから食後ももったりしないそうなのですが、美味しさのポイントは、それより何より、「気持ち」なのだと思います。この料理が出来上がるまで、そして私たちのテーブルに運ばれてくるプロセスすべてに、シェフとお店のかたの「気持ち」がギューッと詰まっているから、こちらはエナジャイズされる。思いを込めたものは、人に驚きと喜び、そして幸福感を与えるのだなと、改めて納得しました。幸せな時間を提供してくれた『盛旺』さんには、またぜひ訪れたい。「名前だけ」の有名店で食事をするより、ずっとずっと、価値があるのですから。
 ……というのも、「たぶん二度と行かないであろうフレンチレストラン」で、苦〜い経験を味わったからこそ、余計にそう強く思うのですけどね。
主張の強すぎるサービスは
料理の素晴らしさを台無しに
 4年ほど前のことです。仕事でパリを訪れた際、友人に勧められたフレンチレストラン『』に足を運びました。本当はほかにお目当てのお店があったのですが、そこが残念ながらお休みだったため、宿泊していたホテル『ル・ブリストル・パリ』のコンシェルジュに無理矢理頼んで、「なかなか予約が取れない」という噂だった『』に電話を入れてもらいました。
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